今日、私たちが直面する出来事や問題には、人間の「身の丈にあった」ものではないことが多いように思われます。身近なものとして「お金」をとりあげてもそうですが、一瞬で数億を手にした(あるいは損失した)という話は、羨望や驚嘆がある一方で、まっとうに働くのでは手に入らないその額に現実味のなさを感じ、この不気味なものをはたして人間は取り扱うことができるのか、と疑問すら思い浮かびます。(もちろん、お金のやりとり全般が悪いというわけではありません。が、相手の顔が見えなくなったとき、そして、巨額になればなるほど、人間の手に負えなくなる可能性は急激に高まるのではないでしょうか)
人間の身体感覚に照らせば「あり得ない」ことが諸問題として噴出しているとすれば、ものごとを一旦「身体」というフィルターにかける必要があるのではないか。そのためには、身体感覚の活性化、いわば「身体知」の獲得が求められるのではないかと思うのです。
著者の内田樹さんが30年以上かけて鍛錬した合気道を通して語る武道論・身体論は、深く納得させられ、ときに自分の身体感覚の未熟さに気づかされる、たいへんにおもしろいものです(「おもしろい」としか言えないところにも、感覚や語彙の未熟さを感じる……)。「無敵」とは何か、「『機』の思想」など本格的な武道論から、医療やコミュニケーション、引っ越しなど生活のなかに見える身体論まで、読んだその時から「何か違う」感じが体の中から湧き上がってくるような話題が満載です。
武道に取り組まれている方だけでなく、何となく「行き詰まり」を感じている方にもそれを打破するヒントを与えてくれる本だろうと思います。身体の「頭のよさ」に気づいてみませんか?
―スズキ
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