2013年11月29日金曜日

ブログ書評第22回 『私の身体は頭がいい』





今日、私たちが直面する出来事や問題には、人間の「身の丈にあった」ものではないことが多いように思われます。身近なものとして「お金」をとりあげてもそうですが、一瞬で数億を手にした(あるいは損失した)という話は、羨望や驚嘆がある一方で、まっとうに働くのでは手に入らないその額に現実味のなさを感じ、この不気味なものをはたして人間は取り扱うことができるのか、と疑問すら思い浮かびます。(もちろん、お金のやりとり全般が悪いというわけではありません。が、相手の顔が見えなくなったとき、そして、巨額になればなるほど、人間の手に負えなくなる可能性は急激に高まるのではないでしょうか)

人間の身体感覚に照らせば「あり得ない」ことが諸問題として噴出しているとすれば、ものごとを一旦「身体」というフィルターにかける必要があるのではないか。そのためには、身体感覚の活性化、いわば「身体知」の獲得が求められるのではないかと思うのです。

著者の内田樹さんが30年以上かけて鍛錬した合気道を通して語る武道論・身体論は、深く納得させられ、ときに自分の身体感覚の未熟さに気づかされる、たいへんにおもしろいものです(「おもしろい」としか言えないところにも、感覚や語彙の未熟さを感じる……)。「無敵」とは何か、「『機』の思想」など本格的な武道論から、医療やコミュニケーション、引っ越しなど生活のなかに見える身体論まで、読んだその時から「何か違う」感じが体の中から湧き上がってくるような話題が満載です。

武道に取り組まれている方だけでなく、何となく「行き詰まり」を感じている方にもそれを打破するヒントを与えてくれる本だろうと思います。身体の「頭のよさ」に気づいてみませんか?

―スズキ

2013年11月22日金曜日

ビブリオバトル首都決戦・中部地区決戦結果

去る11月3日、ビブリオバトル首都決戦・中部地区決戦が信州大学の大学祭「銀嶺祭」にて開催されました。

予選会を勝ち上がった3名が
E・ブリニョルフソン、A・マカフィー『機械との競争』
貴志祐介『新世界より』
と学会『トンデモ本の新世界 世界滅亡編』
が紹介され、『トンデモ本の新世界 世界滅亡編』が新世界対決を制してチャンプ本に選ばれました!

これにより、信州大学経済学部3年の服部匡起くんが中部地区代表として首都決戦に出場します。

首都決戦は今週末、24日(日)の午後1時から、秋葉原の「ベルサール秋葉原」にて開催されます。
大学生のライブ感あふれる書評ゲームを、是非お楽しみ下さい。

遠方の方は動画配信をご利用下さい。
YouTube、ニコニコ動画、USTREAMで配信が行われます。
くわしくはビブリオバトル首都決戦2013ホームページを御覧ください。

年に一度のお祭りです。皆様お楽しみに!!

ブログ書評第21回『クララは歩かなくてはいけないの?』

前回からかなり間が開いてしまいましたが、書評は続きます!


今日紹介する本は、ロイス・キース『クララは歩かなくてはいけないの?』です。


既にお気づきの方も多いと思いますが、タイトルの「クララ」は、『アルプスの少女ハイジ』に登場する、車いすに乗る少女です。『ハイジ』では、ハイジが住むアルプスにクララも住むことになり、そこでクララが自立する意思を持ち始め、ついに車いすから立ち上がり歩き出すシーンが感動的に描かれています。私も、そのシーンはアニメで見て、今でもよく覚えています。

本書では、この感動的なシーンについて全く新しい見方を提示してくれます。なぜ私たちは「障害」からの「回復」に感動するのでしょうか。著者は、その裏には私たちが無意識に持っている「障害」に対するイメージが、特に子供向けの文学において比喩として用いられていると書いています。
その「イメージ」とは一体どういうものであるのか。それは是非読んで確かめていただければと思います。

私たちは普段「障害」や「病気」というものを「克服されるべきもの」と捉えがちです。そのような観点がどのくらい普遍的なものなのか、また、そのような考え方が障害を持つ人の幸せにつながるのか、非常に考えさせられる本です。

本書はロンドンに住む著者によって書かれていて、著者自身も事故で車椅子を使用しているそうです。私は日本に住んでいて車いすも使用していないので、本書に書かれている著者の考え方に戸惑うこともありました。国や時代、もちろん個人の間でも障害に対する考え方も異なるのかもしれませんし、宗教観なども関わっているのだろうとも感じられ、それについても新しい見方を教えてもらった気がします。障害と宗教観については、巻末の解説にも注目して下さい。

障害を「障害」と呼ばせるものは何なのか、「回復」とは何なのか、障害は「回復」しなければいけないのか、難しい問いですが、とても大事な問いであると思います。(あらと)